走査型電子顕微鏡(SEM)を使用した引張試験の活用事例

走査型電子顕微鏡(SEM) を用いた引張試験の概要

走査型電子顕微鏡(SEM)は、材料の表面を高解像度で観察できる先進的な計測機器です。この技術は引張ステージと組み合わせることで、マイクロスケールおよびナノスケールでの材料の変形や破壊メカニズムをリアルタイムで観察することが可能になります。
この手法は、全固体電池、カーボン材料、MEMS(微小電気機械システム)、SiC(シリコンカーバイド)などの新しい材料やデバイスの開発において、多くの研究機関から注目されています。

引張試験(引張ステージ)の概要

引張試験は、材料が引張に対してどの程度の抵抗を示すかを測定する基本的な機械的試験です。この試験では、試料に制御された引張荷重を加え、破断に至るまでの過程を観察します。その過程で得られるデータ(応力-ひずみ曲線、弾性限度、破断点など)は、材料の機械的特性に関する重要な情報を提供します。
引張試験について詳しく知りたい方は、下記のリンクをご参照ください。

引張試験について詳しい情報は、別のサイトをご覧ください。

走査型電子顕微鏡(SEM)の特徴

SEMは、電子線を利用して試料の表面を観察する顕微鏡です。光学顕微鏡では捉えられない微細な構造や凹凸を高分解能で観察できるため、科学、工学、医学など多岐にわたる分野で広く利用されています。SEMを用いることで、材料の微細構造や破壊のメカニズムを詳細に分析し、材料開発や品質保証において重要な役割を果たします。

引張試験の事例 - SEMを用いた金属の引張試験

近年、SEMを用いたIn-situ観察が注目を集めています。この手法では、引張試験中の材料の粒子レベルでの変化をリアルタイムで観察することが可能で、従来の試験方法では得られなかった材料の破壊メカニズムに関する詳細な情報を提供します。

SEM内に引張ステージを設置した様子


破断後のSEMを用いた破断面観察

金属が破断した後にSEMを用いて破断面を観察することで、粒子レベルでの詳細な分析が可能となり、金属の種類や破壊メカニズム(塑性変形や疲労破壊など)に応じた破断面の特徴を確認できます。

– 塑性変形を伴う破断の場合、粒内破壊が観察され、結晶粒内部での破壊現象が 「ディンプル模様」として
現れます。
– 腐食環境や高温環境が原因での破断では、粒界破壊が見られ、結晶粒の境界に沿った破壊が進行し、破断面
には結晶粒の形状を反映した凹凸が観察されます。
– 繰り返し応力による疲労破壊では、破断面に「ストライエーション」と呼ばれる縞模様が見られることが
あります。

引張荷重中のSEMを用いた破断面観察

SEMを用いた引張荷重下でのIn-Situ観察は、破断後の観察では確認できない、破断に至るまでの粒子レベルでの変形メカニズムや故障個所の特定に非常に有効です。この手法には以下のような利点があります。
1. 変形メカニズムの可視化 : 粒子レベルでの変化を観察し、亀裂の発生を追跡することで、破損の原因を
明らかにします。
2. 故障点の特定 : 延性破壊や脆性破壊など、故障の原因となる特定の位置を正確に把握します。
3. 変形の解析 : 材料が引張応力を受ける際の粒子レベルでの変化をリアルタイムで観察します。

ここでは、アルミニウムやステンレス鋼などの金属のIn-situ観察の試験例を紹介します。
以下の図は、金属断面の粒子を示すイメージです。引張ステージを用いて金属に引張応力を加え、SEMによるIn-situ観察を実施しました。この試験により、金属組織の結晶歪みがや、結晶粒の境界に沿った粒子のすべりが進行する様子が確認されました。

この試験では、従来の方法では観察できなかった結晶歪みや結晶粒の大きさに依存する異なるすべりの様子が明らかになりました。SEMを用いた引張ステージでのIn-situ観察により、結晶レベルでのリアルタイムな変化を捉え、破損メカニズムの解明に寄与しています。

金属の断面観察のイメージ図

破断面観察とIn-situ観察の違い

破断後の破断面観察: 破断後の試料の破断面をSEMで観察することで、破壊モードを特定します。しかし、破壊に至るまでの過程を観察することはできません。
In-situ観察: 引張試験中にSEMで試料を観察することで、結晶歪みや粒界でのすべりが進行し、破壊に至るまでの過程をリアルタイムで観察します。これにより、より詳細な破壊メカニズムの解明が可能になります。

その他引張試験の事例

金属や接着剤といった一般的な材料から、炭素繊維やMEMSデバイスなどの新しい材料に至るまで、幅広い用途で利用されています。近年は、全固体電池に関する事例が増加しています。

1. 金属の結晶観察 : アルミニウム合金、ステンレス鋼など、様々な金属材料の引張試験が行われています。
粒子の破壊や粒界のすべりなどの現象が観察されています。
2. 全固体電池 : バインダーの剥離挙動などが観察されます。
3. 複合材料 : CFRP(炭素繊維強化プラスチック)などの繊維強化複合材料の界面剥離やマトリックスの破壊などが観察されています。

まとめ

SEMと引張ステージを組み合わせた試験は、材料の破壊メカニズムを解明するための強力なツールです。In-situ観察により、従来の試験方法では得られなかった、より詳細な情報を得ることが可能になります。これらの知見は、新しい材料の開発や既存材料の性能向上に貢献することが期待されます。

引張ステージの活用事例集

小型引張ステージを使った活用事例を無償でダウンロードできます。
是非、ご活用ください。

上辻 靖智 大阪工業大学 : 織物複合材料の損傷進展解析 ならびにその場SEM観察 ;日本材料学会 ;2002-10 
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsms1963/51/10/51_10_1147/_pdf/-char/ja

UFuFurqan Ahmed University of Engineering and Technology ; Deformation and Damaging Mechanisms in Diamond Thin Films Bonded to Ductile Substrates ; ; 2012-12

地方独立行政法人 神奈川県立産業技術総合研究所 : FE-SEMによる金属破断面観察