引張試験とは、試料を制御された力で引っ張り、その試料が破断するまでの過程で、荷重に対する強度、剛性、伸びなどの特性を試験する方法です。この試験を通じて、素材(材料)の特性を正確に測定します。
自動車、飛行機、住宅、家電製品、スマートフォンなど、私たちの身の回りにあるあらゆる製品は、すべて素材(材料)から作られています。引張試験は、日常生活に密接に関わる製品に使用される素材(材料)の性能や品質を保証し、安心・安全なものづくりにおいて重要な役割を果たしています。
引張試験と日常生活の関係
日常生活と密接に関わっている引張試験
私たちの日常生活において、引張試験は非常に重要な役割を果たしています。私たちの周囲の製品は、引張試験と深く関係しており、建物に使用される鉄骨や、洋服の繊維、スマートフォンのプラスチックやフィルムなど、多岐にわたる材料の試験が行われています。
引張試験では、試料に引っ張る力(引張荷重)を加えることで、その試料の引張強度、降伏点、伸び、絞りといった機械的特性を測定します。また、得られた測定値をもとに、ヤング率、ポアソン比、降伏強さ、加工硬化特性などを解析することが可能です。これにより、材料の性能や品質を正確に評価し、さまざまな製品の信頼性を確保するための重要な情報を得ることができます。
引張試験の技術
引張試験機の種類
引張試験機は、金属、プラスチック、フィルム、ゴム、繊維など多様な材料の力学的・機械的性質を評価するための試験装置です。
建物に使用される金属試料から、精密機器に使用されるフィルムやナノマテリアルまで、試料の種類や用途に応じて、必要とされる引張荷重(引っ張る力)が異なります。そのため、引張試験機は大きく次の3種類に分けられます
① 小型試験機 (小型引張ステージ)
- 精密機器などで使用される小さい材料やナノマテリアルなど、小さな材料の引張試験に使用されます。
- 顕微鏡と組み合わせて観察しながら試験を実施することで、微細な変化をリアルタイムで把握できます。
② 電気機械式試験機
- 繊維やプラスチックなど幅広い材料に対応し、モーターの速度を調整することで引張荷重を制御します。
- 汎用性が高く、中程度の荷重試験に適しているため、工業製品の品質管理に多く利用されています。
③ 油圧式試験機
- 金属や複合材料など、強度の高い材料に対して油圧を利用し、大きな引張荷重を加えます。
- 高荷重に耐える必要がある建設材料や大型部品の試験に適しています。
注目される小型引張ステージ
小型引張ステージが注目される理由
ペットボトルは強度を保ちながら薄型化が進み、洋服は保温性や伸縮性が向上しています。また、パソコンやスマートフォンも年々小型化しています。これらの進化はすべて、素材(材料)レベルでの性能や品質の向上によって実現されています。ナノマテリアルや精密部品を評価する際には、微細な変化を正確に捉えることが重要です。そのため、小型引張ステージと顕微鏡を組み合わせた試験が不可欠となっています。
小型引張ステージの仕組み
ここでは、代表的な小型引張ステージの構成と動作原理について解説します。
小型引張ステージの構成
小型引張ステージは、以下の3つの主要部品で構成されています。
① 小型引張ステージ本体
ロードセルと引張治具の2箇所で試料の端を固定します。本体にはボールねじとモーターが組み込まれており、モーターの動力で試料を両側から引っ張ります。ロードセル内のひずみゲージが試料に発生するひずみをモニターします。
② コントローラ
モーターの制御によって、試料に加える引張力を調整します。また、ひずみゲージからデータを収集し、パソコンに送信します。
③ 操作パソコン
試験条件の設定や、取得した試験結果の表示・保存を行います。パソコン上で試験の状況をリアルタイムで表示し、後の解析やレポート作成に活用できます。
ロードセルに内蔵されたひずみゲージは、試料のひずみを電気信号として検出します。ひずみとは、試料に加わる外力に応じて生じる材料の伸縮量を指します。この引張ステージでは、試料が引っ張られると、その伸びた量がひずみ量として測定されます。
ひずみゲージは、試料のわずかな伸縮を正確に捉え、その変化量を電気信号に変換することで、試料の力学的特性を評価します。
顕微領域での引張試験
顕微領域での引張試験
通常の引張試験では、どの程度の荷重や衝撃で破断が起こるかを測定し、高速カメラで記録した映像を用いて破断箇所を特定します。
顕微鏡を使いながら引張試験を行うことで、より微細な領域での材料の変化を観察・測定することが可能です。例えば、走査電子顕微鏡(SEM)を組み合わせると、ナノメートルレベルでの構造変化や欠損をリアルタイムで評価できます。これにより、破断の前兆や劣化の進行状況を捉え、より詳細な材料特性の評価が可能となります。
小型引張ステージは、さまざまな顕微鏡に搭載して使用でき、微細な領域での材料変化をリアルタイムに測定・観察するのに有効です。これにより、通常の引張試験では得られない詳細なデータを取得できます。以下は、代表的な活用例です。
① ハイスピードカメラ搭載の観察顕微鏡
ハイスピードカメラを用いることで、亀裂の発生位置や切断がどのように進行するかを正確に観察できます。詳細な事例については、次章で紹介する「フィルム試料の引張試験」にて説明します。
② ラマン分光顕微鏡との組み合わせ
ラマン分光顕微鏡では、物質の構造や応力、歪みなどを、ラマン散乱光の波長ごとの強度から解析します。引張試験中に測定を行うことで、分子配向の変化を可視化でき、特にフィルムや高分子材料の評価において、引張中の分子構造の挙動を詳細に把握できます。
③ 走査電子顕微鏡(SEM)による観察
SEMは、電子線を試料に照射して表面構造を観察する装置で、数ナノメートル単位の細部まで観察することができます。引張または圧縮の過程を観察することで、ナノレベルでの欠損や疲労の進行状況を把握でき、素材の劣化や限界をより正確に評価できます。
これらの組み合わせは、製品開発や品質管理において、微細な材料変化の検出と不具合の予防に役立ちます。各種顕微鏡と小型引張試験機の併用は、より高度な解析と製品改善を支える重要な手段となっています。
詳しい活用例については、下記のリンクから事例集をダウンロードしてご覧ください。
ハイスピードカメラによるひずみ解析
ハイスピードカメラを搭載した観察顕微鏡を用いて、ひずみ解析を行った事例をご紹介します。機能性フィルムを小型引張ステージにセットし、引張試験を行いながらハイスピードカメラで撮影し、同時にひずみの変化を解析しました。
① 中央上部におけるひずみの発生
試験の初期段階で、中央上部にひずみが発生しました。赤色で表示された部分が、ひずみの発生箇所です。
② ひずみの広がりと小さな切断の確認
試験を継続すると、ひずみの範囲が拡大し、切断(黒色で示された部分)が生じたことが確認されました。
③ 大きな切断の発生
さらに試験を進めると、ひずみと切断が縦方向に広がり、目視でも切断が確認できました。
この試験では、目視では捉えきれない微細なひずみや切断が、どの程度の引っ張る力(引張荷重)で発生するかを評価しました。顕微領域での材料の変化を詳細に観察することで、製品の不具合を事前に防ぐための重要な手法として高く評価されています。
まとめ
従来の引張試験では、破断時の荷重や衝撃の測定に限定されていました。しかし、各種顕微鏡と三弘の小型引張ステージ ISLシリーズを用いることで、顕微領域での素材の変化をリアルタイムで観察できるようになりました。これにより、新たな素材開発の手段として注目されています。
物理特性の確認やお困りのことがあれば、ぜひ三弘にお問い合わせください。
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