私たちは普段、物の長さを測る時にメートルやセンチメートルといった単位を利用しています。
では、こうしたメートルがどのような基準にもとづいて決められているかご存知でしょうか。
実は、1メートルの長さは時代を経るにつれて変化しています。
今回は1メートルの長さがどのようにして決められていったかの歴史について見ていきましょう。
長さの基準は人の体だった?
メートルの基準に見ていく前に、そもそも人々はどのようにして長さの基準を決めていたかについて見ていかなくてはいけません。
古文書を紐解くと、人類ははるか昔から物の長さの単位を決めていたことがわかります。
たとえば、中国や日本では、「尺」や「里」などといった単位が使われていました。
こうした単位はどのように決められていたのでしょうか。
まず「尺」については、人の親指から人差し指までの長さを2倍にした数、と決められていたようです。
このように、昔の人々は人間の体を物差しにして単位を設定していました。
これについては、ほかの国々でも事情は同じだったようです。
たとえば、今もアメリカなどで使われている「feet」という単位があります。
これは、足のつま先から踵までの長さをもとに作られた単位です。
単位の名前も足を意味する「foot」から取られた言葉です。
アバウトな単位の統一に乗り出したフランス
こうした人間の体を基準に物の長さの単位を決める方法は、長きにわたって用いられ続けていました。
確かに、物差しや巻き尺などがなくても、すぐさま自分の体を使って物の長さを計測できるのは便利です。
とはいえ、こうした計測の方法には難点がありました。
体のパーツの大きさは人によって異なります。
たとえば、フィートなどを見れば明らかな通り、足が大きな人もいれば小さい人もいるというのが現実です。
そのため、1フィートが大きくなったり小さくなったりといった事態が起きてしまいます。
こうしたアバウトさを是正するために立ち上がったのがフランス科学協会でした。
彼らはギリシャ語で「測る」を意味する「metre(メートル)」という単位を新たに発明し、それを長さの国際基準としようと考えたのです。
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なかなか決まらなかったメートルの基準
とはいえ、こうしたメートルの基準はすぐには決まりませんでした。
当時のフランス科学協会には選りすぐりの学者が集まっていましたが、1メートルの長さをどう決めれば良いかということには悩み続けていたのです。
まず彼らは1790年に、振り子が片方の極からもう一方の極まで動く長さを1メートルにしようと提案しました。
振り子はどこでも使えますし、すぐに長さを測れて便利なのは確かです。
しかし、この基準は結局採用されるには至りませんでした。
結論から言えば、振り子は地球上のどこにいても同じ長さで動くとは限らないからです。
地球の重力は場所によって変化するため、この場所では大きく動いても、よその場所では小さく動く、ということがあり得ます。
翌1791年、次に選ばれたのは北極から赤道までの長さを基準にしようという提案でした。
もっとも、これに関しても問題がなかったわけではありません。
そもそもこの時代にはまだ地球がどのくらいの大きさはまったくわかっていませんでした。
加えて、ちょっと考えればわかる話ですが、地球の陸地は山や谷ででこぼこしており、実際に計測しようにも正確な北極から赤道までの長さがわかるわけではありません。
とはいえ、研究チームは7年もの歳月をかけてフランスからスペインの測量を行い、おおよその北極から赤道までの距離を編み出すことに成功します。
そして、プラチナでできた棒を作り出し、それに「アルシーヴ原器」という名前を付け、これを1メートルの長さとすると定義しました。
世界に普及していくメートル、しかし……
もっとも、こうしたフランス科学協会の努力はすぐに受け入れられたわけではありません。
そもそもフランスの人々でさえそれ以前に使われていた寸法を捨てようとはせず、メートルにすぐ移行したわけではありませんでした。
そこで、政府は正式にメートル法以外の寸法は使ってはいけないという法律を出します。
さらに、フランスはこのメートル法を世界に広めようと画策しました。
しかし、当然ながら各国ではさまざまな抵抗に遭います。
今まで便利に使っていた寸法を、なぜわざわざよその国の基準に合わせなければいけないのか、と抗議の声があがったのです。
もちろん、日本でもメートル法を導入するにあたっては、さまざまな議論が行われました。
日本は明治維新に伴って世界の基準に合わせて国づくりを進めようと決めました。
そこで、メートル法もあわせて導入しようとしたのですが、尺貫法という基準に馴染んでいた人々にとっては到底受け入れられるものではありません。
そのため、20世紀になってからも日本では尺貫法、メートル法、そしてヤードポンド法が併用されるという奇妙な状況が続いていました。
加えて、日本は戦後アメリカに占領されましたが、アメリカでもメートル法は導入されていませんでしたから、占領軍はこうした状況を野放しにしていました。
結局、日本でメートル法は1959年になってからようやく完全に普及しきったのです。
ともあれ、メートル法を使う国はじわじわと増えていき、現在では国連加盟国のほとんどが採用しする基準となりました。
もっとも、メートル法が広まるにつれて各国の科学者から基準について懐疑的な目が向けられるようになりました。
まず、メートルの基準となるアルシーヴ原器はいかにプラチナでできているとはいえ、劣化が避けられません。
となると、遅かれ早かれ1メートルの長さは縮んでいってしまうことになります。
何より、保存している施設が倒壊してしまったら、原器も壊れてしまいかねません。
さらに、測量技術の発展によって地球の大きさがわかると、従来の基準は古くなってしまいました。
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新たに光の長さが基準に
このような紆余曲折があった結果、新たに光を基準にしようという提案がなされるようになります。
光の長さは重力の影響を受けないので、地球のどこにいても一定のままです。
そして、周りの影響を受けない真空状態で光を計測すれば、より厳密な測定ができるようになるでしょう。
これによってより正確に1メートルの長さを決められるようになりました。
当初研究者たちは、光の波長の長さを直接測定することによってメートルの長さを設定していました。
とはいえ、真空状態をいちいち作るのはやや面倒です。
何より、その後技術は発展し続け、より正確に光を観測できるような環境が整い始めました。
その結果、研究者たちは光の速さを基準にすることを決めます。
光が進むスピードもまた地球上どこでも一定だからです。
そして1983年、光が2億9,979万2,458分の1秒の間に進む距離の長さがメートルと定義づけられました。
これは、真空でクリプトン86から出る光の波長の1,659,763.73倍です。
以来40年にわたってこの基準は変化していません。
もっとも、科学の進歩に伴って、光に関してより細かく調べられるようになり、より厳密な基準が登場する可能性はゼロではないでしょう。
現在の私たちは光を基準にメートルが決められていると学んでいますが、もしかしたら光以外の何かが基準になるかもしれません。
まとめ
私たちが当たり前に使っているメートル法は、実はここ200年で広まったばかりの新しい発明です。
発明の裏では数多くの科学者による試行錯誤が行われていました。
彼らの努力があった結果私たちは日々便利に暮らせているといっても過言ではないでしょう。
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