現在の私たちはさまざまな食べ物を食べています。
その中でも特に人気のあるのが動物の肉でしょう。
中には宗教上の問題などで食べられない人もいますが、おおむね世界中の人が動物の肉を食べていると言えます。
しかし、将来的には動物の肉が食べられなくなる可能性も否めません。
そのような中で今急速に発明が進んでいるのが培養肉です。
今回は、この培養肉について詳しく解説していきます。
培養肉とは何か
私たちが牛や豚の肉を食べる時は、家畜として育てた後、そのお肉を切って食べるのが一般的です。
それに対して培養肉とは、この動物の肉から採取した細胞をもとにして作られます。
培養肉の製造方法はさまざまあるのですが、現在主流になっているのは筋芽細胞から作られる方法です。
筋芽細胞というのは筋肉のもととなる細胞です。
私たちが普段食べている牛や豚の肉は主に筋肉の部分なのですが、培養肉においてはそれが大切な原料になります。
採取された筋芽細胞をシャーレなどに移し、アミノ酸などが入った培養液に浸していきます。
こうすると細胞が増殖していくので、後は経過を見守っていくと、やがて私たちにも馴染みのある肉ができあがるという仕組みです。
なぜ培養肉が必要?
ところで、なぜここまでして肉を一から作り上げなければいけないのでしょうか。
牛や豚などを育てる牧畜産業は世界中で行われており、一見するとこれだけで十分事足りているようにも思えます。
にもかかわらず、化学的な手段を用いてまで培養肉発明を行わなければいけない理由はどこにあるのでしょうか。
実は、将来的に世界人口を養うだけの食料が足りなくなるのではないか、という問題があるのです。
食糧問題は人類にとって積年の課題となっています。
18世紀頃まで世界の人口は今よりも少なく、10億人にも届きませんでした。
ところが、同じころに産業革命が起きると、人々の生活水準は劇的に良化し、出生率が上昇していきます。
以来地球に住んでいる人類の人口は毎年増え続けており、現在では80億人にまで到達しました。
当然ながら、それに比例して必要な食糧の数も倍増していきます。
とはいえ、地球上で作られる食糧の数には限界があります。
こうした問題はすでに18世紀には懸念されており、マルサスという学者によって提起されて以来地球上の人々が考えるべき問題となっていました。
現在は世界中からあの手この手で食糧を調達していますが、今ですら貧困にあえぎ食べ物にありつけない人がいることは否めません。
さらに、2050年には人口は100億人にまで達するとの予測も出ています。
現状は、先進国や発展途上国の人々は何不自由なく食べ物にありつけていますが、彼らもまた貧困国の人々のように肉を食べられない未来がやってくるかもしれません。
こうした事態を避けるために培養肉の発明が急ピッチで進んでいるのです。
環境問題の解決にも培養肉が役立つ?
私たちが解決すべき問題は食糧問題に限りません。
地球温暖化をはじめとした環境問題も解決しなければ、地球には住み続けられないでしょう。
実は、こうした環境問題の解決にも培養肉は一役買う可能性があるのです。
一見関係ないように見える培養肉がなぜ環境に優しい発明となるのでしょうか。
地球温暖化を引き起こしている要因というと、二酸化炭素を思い浮かべるでしょう。
それは間違っていませんが、温暖化を招く温室効果ガスはそれだけではありません。
メタンガスもまた温暖化の要因となっているのです。
このメタンガスは、たとえば土地を埋め立てたり、化石燃料を燃やしたりすることで発生します。
加えて、なんと牛のゲップからも発生することがわかっているのです。
もちろん、1頭の牛がゲップをした程度で発生するメタンガスの量はたかが知れたものです。
とはいえ、地球上で飼育されている乳牛や食肉用の牛はおよそ15億頭にものぼります。
これらの牛が年がら年中ゲップをし続けていれば、メタンガスの量は膨大になってしまうでしょう。
牛の飼育が原因で温暖化が発生しているとなれば、私たちは牛を食べることそのものを見直さなければいけません。
これこそが培養肉が環境問題の解決に役立つ理由なのです。
倫理的にもメリットが大きい培養肉
さらに、現在世界中ではヴィーガンの人が増え続けています。
ヴィーガンとは、動物性食品をまったく食べない人々のことです。
なぜ彼らが食肉を批判しているのでしょうか。
そもそも牧畜が行われる過程では、牛や豚は檻に入れられることや自然に反する形で飼育されています。
加えて、育ち切った動物を食肉に変えるためには、彼らを殺さなければいけません。
こうした過程をヴィーガンは残酷であるとみなし、倫理的に振る舞うよう人々に求めているのです。
とはいえ、いきなり世界中の人々が肉を食べるのをやめて野菜ばかりを食べるようになるのはリスクを伴います。
そもそも私たちが何のために肉を食べているのかといえば、必要な栄養素を摂取するためです。
肉を食べるのをやめたら私たちの健康は損なわれるので、元も子もなくなってしまうでしょう。
事実、ヴィーガンの生き方を実践している人々の中にも、健康を損なって病を患っている人は少なからず存在します。
動物を殺さずに人間として生きるために必要な栄養を取るにはどうすれば良いのでしょうか。
こうした難問の解決法として培養肉の開発があるのです。
培養肉発明の歴史は?
ここまで見てきたように、培養肉の発明は積年の課題をクリアし、さまざまなメリットをもたらしてくれるプロジェクトです。
では、培養肉の発明は現在どこまで進んでいるのでしょうか。
培養肉の開発の歴史はまだまだ日が浅く、20年程度の時間しか経っていません。
もちろん、筋芽細胞に培養液を浸せば肉に近いものができる、という研究自体は20世紀の時点で行われていました。
とはいえ、その過程でできた肉は到底食べられるものではありません。
ようやく形になるような培養肉が発明されたのは21世紀に入ってからです。
特に2013年にはすべての肉を培養肉で作ったハンバーガーが発明されるまでに進展しました。
もっとも、これで問題が解決したわけではありません。
というのも、このハンバーガー1個が作られるまでにかかった費用はなんと3,000万円にものぼったそうです。
培養肉開発はスタートラインに立ったと同時に、いかにコストの問題を解決するか、という課題も突き付けられました。
一般人も食べられる培養肉の開発に向けて
ブレイクスルーという概念があります。
これまで乗り越えられないと思われてきた高い壁を乗り越える人が一人でも出てきたら、自分にもできると思えるようになる人が増え、続々と壁を乗り越える人が出てくるという現象を説明した言葉です。
2013年のハンバーガーの開発はまさにブレイクスルーだったと言えるでしょう。
以降、次々と培養肉開発に参入する企業が増えていきました。
10年ほどが経った現在でもコストの問題はまだまだ解決されたとは言い切れません。
とはいえ、たとえばハンバーガーを作るだけなら1,000円程度で済むようになってきています。
まとめ
培養肉はできてまだまだ日が浅いです。
本物の肉を食べるのに慣れている人々にとって、いかに似ているといえど培養肉を食べるのは抵抗があるかもしれません。
とはいえ、本物の肉の細胞をもとにできているので、味は問題ないものが多いです。
将来的にはスーパーなどでも培養肉が並び、当たり前のように食卓に並んでいる時代が来るかもしれません。