はじめに
一般の方が使用するノギスや温度計から、化学分析や半導体、自動車メーカーで使用される特別な計測器まで、さまざまな種類の計測器があります。
測定器を購入する際には、誰もが精度を気にします。「この測定器は高精度だから値段が高い」と耳にすることもあるでしょう。
私たちはふだん何気なく精度という言葉を使っていますが、計測器の性能を示す、正確性、分解能、直進性、精密さ、繰り返し精度など、異なる意味を持つ用語があります。それぞれの違いをご存じですか?
そこで、精度について改めて考えてみましょう。
定義が異なる厄介な単語?
結論から言うと、精度には主に2つの定義があり、化学分野、半導体分野、自動車分野など、それぞれの分野で異なる定義が用いられています。
定義の調査
一般の方の定義の調査として辞書[1]、産業界での調査としてJIS規格[2]、さらにAI[3]を使って調査しました。
辞典で調査
辞典では, 「 測定する際や、また、器械などの正確さ・精密さの度合い。また、仕事などの正確さの度合い。「―の高い時計」」(デジタル大辞泉 小学館)
「1. 測定・測量などにおける方法や計器の精密 さ・正確さの程度.普通,測定される量の大きさ に対する誤差の比で表す.2. 仕上がりの正確 さの程度.」(大辞林 三省堂),とあった。
いずれも,正確さ と明記されており、つまり,測定値が真の値にどれだけ近いかを示すと定義されています。
真の値が的の真ん中であるとすると、測定結果が的の真ん中付近にあるイメージです。
JIS規格で調査
化学計測分野
化学計測分野では, Z 8402-1:「第1部:一般的な原理及び定義」で以下のように精度を定義しています。
- この規格では,測定方法の精確さを表すために“真度”と“精度”の二つの用語を用いている。“真度”は,多数の測定結果の平均値と,真の値
又は参照値との一致の程度を示すものである。“精度”は,測定結果の間の一致の程度を示すものである。
- 精度 (precision) :定められた条件の下で繰り返された独立な測定結果の間の一致の程度。
つまり、繰り返し測定した結果が一致した度合いを精度と定義しています。
物理計測分野
物理計測分野では,Z8103:2000で以下のように精度を定義しています。
測定結果の正確さと精密さを含めた、測定量の真の値との一致の度合い
つまり、真の値との一致の度合いと定義しているので、辞典の定義と一致します。
AIでの調査
いくつかのAIを使って、「精度とは?」という質問をしてみました。
Gemini Flash 1.5
一般的な意味
正確さ、正確さの程度: 目標とする値や状態にどれだけ近いかを表します。
精密さ: 細かくて正確な程度を表します。
科学的な意味
測定値が真の値にどれだけ近いかを示す尺度です。
繰り返し測定した場合のばらつきの小ささを示す尺度でもあります。
Copilot GPT-4
測定器や計測器がどれだけ正確に測定結果を示すかを表す指標です。具体的には、以下のような要素が含まれます:
正確性: 測定値が真の値にどれだけ近いかを示します。
分解能: 測定器が区別できる最小の変化量を示します。
直線性: 測定範囲全体での測定値の一貫性を示します。
精密さ: 同じ条件下で繰り返し測定したときの測定値のばらつきの少なさを示します。
これらの要素が組み合わさって、測定器の総合的な性能を評価できます。精度が高い測定器は、より信頼性のあるデータを提供するため、特に重要な測定や分析において重宝されます。
Felo 24.37.7
測定や計算において得られた結果がどれだけ互いに近いか、またはどれだけ真の値に近いかを示す指標です。精度は、特に科学や工学の分野で重要な概念であり、以下のように定義されます。
精度の定義
精度(Precision): 同じ対象を複数回測定した際の結果がどれだけ互いに近いかを示します。例えば、同じ物体の長さを3回測定して得られた値がすべて23.50cm、23.52cm、23.51cmであれば、これらの測定は精度が高いと言えます。精度は、測定のばらつきの小ささを表し、再現性とも関連しています。
正確度(Accuracy): 測定結果が真の値にどれだけ近いかを示す尺度です。例えば、実際の長さが23.50cmである物体を測定した結果が23.49cmであれば、正確度が高いと言えますが、測定値が23.00cmや24.00cmであれば、正確度は低いとされます。
AIの回答は、繰り返し測定した結果の一致の度合いと真の値にどれだけ近いかの両方を示してます。
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整理すると
技術用語が長く続いたので、整理すると以下のようになります。
一般の方と物理計測分野の精度は、真の値にどれだけ近いかと定義されています。このため、測定結果にバラツキがあったとしても、青色の測定結果が精度が良いということになります。
一方、化学計測分野の精度は、繰り返し測定した結果の一致の度合いと定義されています。このため、測定結果が真の値と差があったとしても、緑色の測定結果が精度が良いということになります。
何故こうなったのか???
ある識者は、計測に関する英語の用語がそれぞれの分野で日本語訳されたことが原因で混乱が生じていると推察しています。AIの回答の中に、"accuracy"と"precision"という英単語が登場しました。これらの用語がJISの基本用語としてどのように規定されているかを以下に示します。
Accuracy | Precision | |
---|---|---|
化学計測分野 | 正確さ | 精度 |
物理計測分野 | 精度 | 精密さ |
"Accuracy" は「測定値が実際の値または真の値にどれだけ近いか」を示し、"Precision" は「繰り返し測定された結果が互いにどれだけ近いか」を意味します。これらの定義からもわかるように、どちらの用語も間違っているとは言えず、精度という言葉の曖昧さが際立っています。
ある識者は、「現在の複雑な技術の組み合わせで成り立っている工学の分野では、これらの用語を使わない方が無難かもしれない」と述べています。しかし、精度という単語は広く使われているため、使用しないことも難しいと考えられます。
筆者も長年計測機器の販売に従事しており、精度という言葉の曖昧さを痛感しています。半導体業界では、精度という用語を避け、"正確さ"(Accuracy)と"繰り返し精度"を使い分けています。一方、自動車などの工業製品の業界では、精度を「真の値にどれだけ近いか」という意味で使用しています。実際には、相手がどちらの意味で 精度という単語を使っているのかを確認する必要があります
まとめ
大谷選手をはじめとする多くの野球選手がメジャーリーグで活躍することで、ますます多くの日本人がメジャーリーグの試合をテレビで観るようになりました。その影響で、これまで何気なく使われていた和製英語の「ゲッツー」や「ナイター」は使われなくなり、代わりに「ファーストボール」「ツーシーム」「スプリット」「フォーシーム」といった英語名の球種がそのまま使用されるようになっています。
精度という言葉も何気なく使われてきましたが、筆者は近い将来、アキュラシー(Accuracy)やプレシジョン(Precision)といった英語の用語が一般的に使われるようになると考えています。
精度って何? 一般財団法人日本自動車研究所 秋山賢一
https://dl.ndl.go.jp/view/prepareDownload?itemId=info%3Andljp%2Fpid%2F9214857&contentNo=1
「はかる」ことについて 地方独自行政法人 東京都立産業技術研究センター 上本道久
https://www.iri-tokyo.jp/uploaded/attachment/2704.pdf
現場で役立つ化学分析の基礎 オーム社 平井昭司監修 日本分析化学会編
https://www.ohmsha.co.jp/book/9784274217609/
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