VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)技術をご存知ですか。
2022年に日本でも多くの人が熱狂したFIFAワールドカップ カタール大会でも注目を集めました。
この記事では、日本のJリーグでも採用されているVARの基本的な仕組みと、2022年のワールドカップで採用された、さらに進化した最新のVARについてご紹介します。
VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)とは
VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)とは、簡単にいうと、試合のビデオ映像を見て、主審の判断に役立つ情報を与え、主審をアシスタントする審判員のことです。
VARの役割を与えられた審判員、すなわち人が担当しています。
スポーツ競技では、勝敗を分けたり、反則かどうかが微妙な状態になったり、選手などが絡み合ったり、一瞬の出来事が起こり、どんなに審判員が注意力を集中させても判断が難しい場面が少なくありません。
かつてはどんなに微妙な判断でも、主審の判断が絶対でした。
ファンからブーイングが起きたり、監督や選手から抗議されたり、チーム間で大乱闘が起きても覆されることはありませんでした。
しかし、人気チームの試合などはテレビ中継され、映像を後から振り返ると、本当にその判定が正しかったのか、議論が巻き起こることも少なくありません。
とはいえ、テレビ番組のカメラ映像は、あくまでも試合全体や選手がプレーする姿をファンに見せる目的で撮影されており、必ずしも判定に必要となる映像が撮られているとは限りません。
そこで、試合で公式にVARを導入し、カメラを必要な位置に配置するなどして、公正で公平な判定ができるようにするようになりました。
どの試合でもVARが行われるわけではなく、サッカーの競技規則を制定する権限を持っている国際サッカー評議会(IFAB)の承認を受けた組織、スタジアム、審判員でなければ利用することは認められません。
2018年のロシアワールドカップで導入されたのが、VARに注目が集まったきっかけの一つです。
VARが利用される場面
VARは、試合中常に判定を行うわけではありません。
試合をジャッジするのは、あくまでもフィールドにいる主審です。
VARは、別の場所で映像を見ながらフィールドの審判員をサポートする審判員であり、その場で試合を見ているほぼすべての人が、主審の判定は明らかに間違っていると思うような事象や判断が極めて難しいケースにしか介入できません。
プロスポーツの世界では、人の視力の限界を超える速さや複雑なプレーが繰り広げられます。
この限界を超えるようなケースのみ、VARが利用されるルールになっています。
VARの原則は、最小限の干渉で最大の利益を得ることだからです。
VARが利用できるのは、得点かどうか、PKかどうか、退場かどうか、警告退場の人違いの4つのケースと、主審が確認できなかった重大な事象のみです。
主審が確認できなかった重大な事象とは、ペナルティーエリア内で守備側選手がボールを手で扱ったかもしれないといった、主審の位置からはまったく見ることができないような事象が該当します。
VARの流れ
VARの対象となる事象が起きると、VARは事象をチェック中だと無線マイクで主審に伝えます。
この時、主審は耳に手を当てて、チェック中だと示さなくてはなりません。
「はっきりとした明白な間違い」がなければ、その旨を伝えます。
レビューが必要だと判断した場合は、その提案をします。
主審はVARオンリーレビューを受けるか、またはフィールド外に設置されているレフェリーレビューエリアに足を運んで、オンフィールドレビュー(OFR)を行う流れです。
VARオンリーレビューは、映像を見ればすぐに確認できる事実について実施され、VARの見解のみが伝えられます。
オンフィールドレビューは事実の確認だけでなく、主観的な判断が必要となる事象に対して行われ、主審も映像を確認したうえで判断を行うことです。
VARの仕組み
VARは、ビデオ・オペレーション・ルーム(VOR)と呼ばれる場所で、アシスタント・ビデオ・アシスタント・レフェリー(AVAR)や、リプレイ・オペレーター(RO)と共に映像をモニタリングしつつ、ヘッドセット・コミュニケーション・システムを使って、フィールドにいる審判員と情報交換をしています。
AVARはモニターをチェックしながら、VARをサポートする担当者です。
一般的な試合ではVAR1名、AVAR1名体制ですが、ワールドカップなど大きな試合ではAVAR2~3名と公正な判断ができるように整備されます。
VARもAVARも、少なくとも6ヶ月間の必修訓練を受け、トップリーグの副審&主審または元副審&主審が行う決まりです。
ROは、モニターで試合映像をチェックしながら、VARの求めに応じて、複数台のカメラによる映像の中から最適な映像をセレクトし、スロー再生やコマ送り再生などを行う担当者です。
さらに進化するVAR
ワールドカップでは、2018年のロシア大会からVARを正式導入しましたが、2022年のカタール大会では、オフサイド判定を助けるAI搭載カメラシステムもプラスされました。
半自動オフサイド技術は、1秒間に500回フィールド上の位置を発信するセンサーが内蔵された公式サッカーボールと、スタジアムの天井に取り付けられた12台のトラッキングカメラによって構成されます。
トラッキングカメラは、機械学習によりボールの動きやプレーヤーの体の複数のポイントの動きを追跡することが可能です。
ボールトラッキングはボールの中心を見つける2次元画像処理と、時間の経過に伴うボールの軌道のモデリング3次元三角測量という、大きく2つの要素技術で構成されています。
これを、試合により8~12台の複数台のカメラで、1秒あたり最大340フレームのフレームレート(静止画像数)で記録していく技術です。
こうしたボールからセンサーで送信されるボールの位置などの情報と、複数台のトラッキングカメラによる選手の動きのデータを組み合わせて、オフサイドが起こったかを自動判定します。
オフサイトと判定すると、自動アラートが発信され、VARらのチームに送信されます。
VORにおいてVARやAVARが、アラートを受けて検証を行い、フィールドにいる主審に伝えるという流れです。
AI判定から主審への伝達まで、わずか数秒ほどでできるというスピーディーさです。
半自動オフサイド技術で生成されたデータは、その場で自動アニメーション制作に使われ、スタジアムの大画面やテレビの生中継画面で、アニメとして再生されることになっています。
まとめ
VARは、主審の判定が難しいケースなどで、映像を確認して主審の判断を助ける役割を果たしています。
ワールドカップでは、2018年のロシア大会から導入されましたが、2022年のカタール大会ではオフサイド判定を助けるAI搭載カメラシステムもプラスされました。
ボールに内蔵されたセンサーから送られる情報と、フィールドに設置された複数台のトラッキングカメラを通じて送られる情報をもとにAIがオフサイド判定を行い、アラートを送信します。
アラートを受け、VARらが確認を行い、主審に情報を伝える仕組みです。
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