スポーツは数多くの人々を熱狂させますが、同時に多くの不満も生んできました。
特に採点競技に関しては審判による誤差はつきものです。選手の勝敗に大きな影響があった例は少なくありません。
人間の動体視力や判断能力には限界があり、必ずしもすべてのプレイを正確に審判できるとは限らないのです。
今回は、そうしたヒューマンエラーを取り除くために導入されている、AIによる採点システムについて詳しく見ていきましょう。
難しすぎる体操の採点システム
オリンピックの人気競技の一つとして体操が挙げられます。
体操は特に日本人選手が強く、過去の大会でも多くのメダルを獲得してきました。
高い難易度の技を繰り出す選手たちの姿を見て、人間にもこんなことができるんだと思った方は多くいるでしょう。
体操は採点競技です。
この技を決めたら何点、とはいえ決まってもしっかりと回転しきれていなかったら減点といった基準が決められています。
しかし、選手の試技をリアルタイムで見ながら採点するのはなかなか難しいです。
体操に馴染みのない人にとっては、今のは何回転だったのか、どれくらいひねりが加えられているのか、といったことを瞬時に見分けるのは無理でしょう。
実は採点を担当する審判にとっても、こうした採点を正確に行うのは至難の業です。
いかに長年にわたって競技を見続けているベテラン審判といえど、肉眼でここは成功でここは失敗、と見極めるのは簡単ではありません。
そのため、これまでの体操の大会では、本当に正確に採点ができているのか、ということでしばしば物議を醸し出してきました。
たとえば、ロンドンオリンピックで日本代表は団体総合で銀メダルを獲得しましたが、実は当初は4位と採点されていました。
最後の内村航平さんの試技が低く採点されていたのです。
結果的には、監督やコーチが審判団に対して抗議したことによって判定が覆ったのですが、やはり最初から正確に審判してほしかったという念はぬぐえないところでしょう。
これ以外にも、オリンピックや世界選手権で、誤審によって選手が不利益を被った例は多々あります。
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もはや人間の力で正確な採点をするのは無理?
こうした採点の難しさは、近年になるとより顕著になっていきます。
体操はいかに人よりも難しい技を決められるかどうかで競うスポーツです。
そのため、各国の選手たちは日々研鑽を続けながら新技の開発を続けています。
この結果、体操選手たちの技術は向上していき、かつては誰にもできなかった技が、今ではすべての選手ができるという例もザラです。
このように、技術が向上していくことは体操の発展にとっては間違いなくプラスでしょう。
一方で、審判たちにとっては、こうした技術の向上はより採点を難しくしていきます。
たとえば、最近編み出された新技として日本人の白井健三さんによる「シライ」があります。
これは、足を伸ばしながらバク転をし、その後4回ひねるという難易度の高い技です。
この際、審判は本当に足が伸びているか、そしてちゃんと4回ひねれているか、ということを見なくてはいけません。
「シライ」はとてつもない速さで繰り出される技のため、肉眼では判別するのは不可能です。
このように、現在の体操界は新しい技が生まれれば生まれるほど、審判にとっては採点が難しくなるというジレンマに直面しています。
規模が大きくなればなるほど審判は重労働に
これに加えて、近年では体操をやる人々が増えたおかげで、多くの選手が大会に参加するようにもなりました。
これもまた体操界にとっては嬉しい話なのですが、一方で審判にとっては頭を悩ませる要素です。
というのも、たくさんの選手が参加していると、すべての試技を行うためには朝から晩までかかることが珍しくありません。
もちろん、すべての試技を正確に採点しようと思うとVTRの力も借りることになるので、なおさら時間がかかります。
当然ながら、これらの試技を審判するのはすべて同じ人です。
そのため、最後の方の試技を見るころには審判はヘトヘトで、まともに採点できなくなるということも頻繁に起こります。
これらの要素を踏まえると、もはや体操の採点は人間には無理といっても過言ではないでしょう。
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AIが体操を採点する時代に
人間には体操の採点は難しいという話は何年も前から持ち上がっていました。
もっとも、代替策もないため数年前までは人間が採点を行うしかありませんでした。
そこで開発されたのがAIによる体操採点システムです。
事前に人の体の動きをAIに学習させることで、今の試技がどんな技だったかを分析するシステムが開発されたのです。
これに加えて、実際の大会ではレーザーを選手に向けて照射するセンサー技術も導入されています。
現在使われているものでは、選手に影響のない近赤外線のレーザーを200万Hzの周波数で選手に照射し、実際の動きをスキャンするシステムが採用されています。
これによって、それぞれの選手の試技を3DCGによって再現できるようになり、より正確な採点ができるようになりました。
こうしたAIによる体操採点システムは、2019年の世界体操選手権から導入がスタートしています。
残念ながら2021年に行われた東京オリンピックでは導入されませんでした。
AIの導入に伴ってネックになるのが、人間の仕事を奪ってしまうという懸念です。
特に体操の審判は長年勤務している方も多いため、AIにすべてを任せることに抵抗を示す人が多くいました。
とはいえ、次のパリ五輪では導入されることが予定されています。
これによって、選手が不満を感じることなくパフォーマンスを全うすることができるでしょう。
AI採点システムによって選手の技術も向上?
実はこうしたAI採点システムは、実際の大会で用いられる以外にもメリットが期待されています。
それは、練習の中で採点システムを導入するという考え方です。
たとえば、これまで選手たちは練習の中で今の試技は成功か、それとも失敗か、ということを独自に判断するしかありませんでした。
練習の中でうまくいったと思っても、いざ本番になると審判の基準に噛み合わず、低い得点しか記録できなかったということはザラにありました。
もちろん、一流選手になればプロの審判に試技を見てもらうことができるでしょう。
とはいえ、練習でやっていることが本当に本番でも評価してもらえるかどうかは、運によるところも否定できませんでした。
一方で、AIによる採点システムは基準にブレがありません。
あらかじめしっかりと定められた基準にもとづいて、この技はこのように動かなければ減点と教えてくれます。
そのため、練習の中でも本番に近い感覚で臨むことができるようになるのです。
もちろん、レーザーを導入するには相当なコストがかかるので、すべての選手がこうした練習環境を整えられるわけではありません。
とはいえ、カメラで撮った映像をAIに分析させて採点してもらうということは十分に可能です。
これによって、どこをどう改善すればしっかりと得点を獲得できるのか、ということが明確になり、今まで以上に選手たちの技術が向上されるというメリットが生まれます。
まとめ
センサー技術は日進月歩で発達し続けています。
オリンピックで使われているようなセンサー技術が身近な環境で使えるようになる日もそう遠くはないでしょう。
三弘でもこうした動きを3Dに出来る測定器を取り扱っています。
体操に限らず産業にスキャン技術を導入したいと考えている方はぜひお問い合わせください。